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栗山千明さん応援blog「GO!GO!C.K」

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新春特別企画!「六番目の小夜子」外伝『忘れないから…』その2

「え~宴もたけなわでございまするが・・」

お決まりの口上と共に溝口幹事が一次会を閉める。
友達同士で二次会に繰り出すもの、携帯でそれぞれの連れ合いを呼び出すもの・・。
人の輪が段々と小さくなり・・。

私達五人が残った・・。

「沙世子、今日どこに泊まるの?ウチに来たら?ね?ね?」
「そうさせてもらおうかな?」
「よし!決まり!」
嬉しそうな雅子・・まぁの声。
変わらない、そう、今でも・・。

レジの前で支払いを済ませる溝口君。
「それ済んだら二次会はお前の店な!」
「判ったわよぉ!もぉ・・」
二次会幹事の声を振り払うように彼は振り返り、声を掛けてきた。

「ウチの店近くだから、しばらくしたら顔出すわ。それまでここでお蕎麦でも食べてて。」
「え?溝口君、お店って・・」
戸惑う私に秋が悪戯っぽい笑みを浮かべ
「『歌声スナック溝口』っていうと、同級生の間じゃ結構有名なんだぜ」

納得・・・。

秋。

あんな笑い方・・してたっけ?
もっとシニカルな笑い方してなかったっけ?

加藤君が前掛けを結びながら
「じゃ、待ってる間に蕎麦でも打つか?」
「え~カトが打った蕎麦ってコシが弱そう。」
「お前に言われたかぁないわ!」
まぁと口喧嘩を楽しみながらも、トントンと心地よい音が厨房から響いてくる。

自信に満ちた、安心して聞いていられる技の鼓動。

「はいよ!お待ち!」
ザルの上には瑞々しい蕎麦の香り。
「へ~結構まともじゃない?」
「まぁ・・」
私がたしなめる声と交差して、秋の感嘆の声
「結構どころじゃないよ・・スゴくない?これって・・。」
一口、口に含むと何とも言えない香りと風味と喉ごし。
「加藤君!美味しい!」
「悔しいなぁ!こんな美味しいお蕎麦食べた事ない!いつの間に腕上げたの?」
「俺もそろそろ蕎麦屋の親父ってことよ・・。」
皮肉な笑みを浮かべ、お椀を抱え厨房から出てくる彼の腕は中学の頃からは想像も出来ない程逞しくなっていた。
「蕎麦粥作ってみた。飲んだ後にはウマいんだ。これが・・」
結構料理を食べた後なのに、それらはするりと私達の胃袋に収まってしまった。

「変わったな。加藤」
秋がしみじみ呟く。
「いやだなあ、先輩からそんな言葉聞きたくないですよ。」
当時と変わらぬ憎まれ口。
「フフ、相変わらずだな。お前のそんなところ。」

なんだろう?・・この違和感。
何か大切な事を忘れているようだけど、思い出せない。
思い出したいのだけれど、記憶の中に濃い霧がかかっていて「それ」は姿を現そうとさえしない。
じれったい・・。

「しかし、お前達二人がそんなに仲が良くなるなんて転校してきた時には想像出来なかったんだけどな・・。」

秋の声、こんなに野太くゆったりとしたバリトンだったかしら?

ううん、あの頃はもっと神経質な響きがあった。
人の言葉を理解はしても、納得し、取り込もうとする事を拒否するプライドの高さがあった。
今の秋の声からはそんな面影すら感じられない。
「へへ~んだ。うらやましいでしょ?秋君。」
腕を回し組み、自慢げに語る雅子。

そう・・。

ある時から私と彼女、花宮雅子の関係は最大の敵から最良の友へと変わったのだ。
北校舎が焼け落ちたあの火事の夜。
私は、イヤな予感がして当時下宿していた祖母の家をそっと抜け出した。
駈け出した先は取り壊し予定の旧校舎。
夜の闇が舞い降りるのを断固拒否するように、炎が紅蓮の光を発し続け、その中に雅子がいた。
考えるより先に体が動き、私は彼女を炎の中から引きずり出し、ひっぱたき、そして、最後は泣き合っていた。

きっかけは些細な事。
空想、瞑想癖があった私に困り果て、両親が預けた祖母の家。
たまたま通う事になった中学に伝わる伝説・・『サヨコ』
指名された生徒が始業式の朝に花を活け~サヨコという名前で文化祭の日に一人芝居をする~最後に次のサヨコを指名して、終わり。

たったこれだけの事の・・筈だった。

転校を迷っていた私の元に届いた一通の手紙。
そしてもう一通の手紙は関根秋の元に。
「二人のサヨコ」
それまでの私は、与えられた課題に完璧な答えを用意出来る自信があった。
勉強、スポーツ、音楽etc。
けれど・・そんな今までの私をあざ笑うかのように色々な事件が起こり・・結局、私は『サヨコ』を完遂することなくこの街を去った。

けれど・・私にとってはそんな事、もうどうでもいいのだ。
今は・・真っ直ぐで元気で明るい・・雅子がここにいる事に感謝している。

結局、雅子こそがサヨコに魅入られた巫女だったのだ。
偽のサヨコとして・・サヨコの代弁者として・・最もサヨコらしい働きをしたまぁ=花宮雅子。
関根秋がその謎を解き明かした時、既に私達の間のわだかまりは霧散していた。

「不思議よねぇ。あんた達って八ヶ月間しか一緒にいなかったくせに、何年も一緒に過ごしたような顔してるわ。」

いつの間にか・・溝口君が戻ってきて話の輪に加わっている。
雅子との付き合いは彼の方が長い。
「当然でしょ?溝口なんかとは違うもん!」
無邪気な雅子。
(つづく)

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